ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.9  夏の冷え症、冷房病と養生


日本では例年、6月中旬頃には本格的な梅雨入りです。ジトジトと雨が降り続き、湿気が強く、いよいよ蒸し暑くなってゆきます。漢方では、過度の湿気は「湿邪」(しつじゃ)と呼ばれ、病気の原因のひとつです。梅雨の季節の湿気はまた、からだを冷やす性質があります。湿邪と冷えの影響はまず、手足やからだの重だるさとなってあらわれます。この季節、寝る前は蒸し暑くても明け方に気温が低下することが多いため、手足やからだを冷やしやすいものです。翌朝の重だるさや、筋肉痛、足のこむらがえり、などをおこすことがあります。          そのため、現代日本の多くの住宅、職場環境ではこの季節、エアコンによる除湿や冷房がどうしても必要になってきますね。
汗をかいたあとにエアコンで冷やしすぎないことと、就寝中は長めの袖、長ズボンのパジャマなどを着用するようにして、上下肢に湿気や冷気が直接当たらないようにするだけでかなり効果があります。
湿邪は胃腸の働きに対しても影響します。お腹がはる、軟便や下痢気味になる、食欲低下などがよく見られます。汗をたくさんかいたあとに冷房や冷たいビールでからだを冷やしすぎないようにしてください。
梅雨も明けると夏本番。暑邪(しょじゃ)、熱邪(ねつじゃ)が加わり、長期間のクーラー刺激によって冷房病が増えてきます。暑苦しくて眠れない熱帯夜が続きますが、夜間就寝中のエアコンは軽めの除湿程度として冷やしすぎない工夫が大切でしょう。私は寝る前に温浴後の冷たい水かぶりを習慣にしております。
冷房病には、漢方では、首筋の冷えに「葛根湯」(かっこんとう)、背中の冷え、くしゃみ、鼻水には「麻黄附子細辛湯」(まおうぶしさいしんとう)、頭痛に「桂枝人参湯」(けいしにんじんとう)、関節痛、筋肉痛には「桂枝加朮附湯」(けいしかじゅつぶとう)、お腹、胃の冷え、痛みには「人参湯」(にんじんとう)、腰の冷えや腰痛には「苓姜朮甘湯」(りょうきょうじっかんとう)、「五積散」(ごしゃくさん)、手足の冷えには「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)などが用いられます。
また、スカーフを巻く、靴下の重ね履きなどの防寒対策、使い捨てカイロなどで冷えを感じる部位を気持ちよく温めるのも有効です。
食生活では、ビール、ジュース、アイスクリームなどの冷たいものはほどほどにして、お腹を冷やさないことです。からだを温める食品(ねぎ、しょうが、根菜類など)をよく摂りましょう。