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こころに残るアトピー長期治療の患者さん(その2)【ケース2. 27歳、女性、会社員】
この女性の主訴は、アトピー性皮膚炎と喘息にたいする漢方をふくめた総合的治療です。 20歳頃より顔や首、手に慢性湿疹が出現、アトピーの診断にて皮膚科通院加療するも難治性でした。さらに、22歳のときから気管支喘息を併発し、加療中です。 1993年1月より某院にて、喘息にもよく用いられる漢方薬の小青竜湯エキス剤とテオドール(テオフィリン製剤、有名な気管支拡張剤)の投与でコントロールされていました。しかし、同年6月より発作が頻発するようになり、私の患者さん(いきつけの理容師さん)にすすめられ、同年12月当科を受診しました。テオドール,ザジテン(抗アレルギー剤),ベロテック,メプチン・エア(喘息発作を鎮める吸入剤)を投与中。ステロイド外用剤は6年間続けていました。 初診時、152cm、46kgと体格中等。血圧102/80と低め。全身皮膚は乾燥し、褐色調であり、頚囲がとくに黒ずみ、苔癬化、掻破痕(ひっかき傷)あり、一部滲出性(じゅくじゅく)。受診時、たまたまゼーゼーと喘息発作(中等度)が起きており、呼吸が苦しく、咳込み、切れにくい痰、鼻汁あり。舌は淡紅色で、湿った白苔あり、腹診では、胸脇苦満(脇腹の張り)、腹直筋緊張あり。普段の食欲は良好。不眠あり。 便通1日1行、月経は順調。疲れやすい、全身倦怠、のどのつまった感じ、口の苦み、いらいら、背中・首・肩の凝り、足の冷え(+)。気分憂鬱(++)。 食生活では、塩辛いもの、魚、野菜、豆腐が好き。とくに甘いもの(チョコレート、アイスクリーム)が大好きで、いらいらしたときなどに大量摂取する習慣が認められました。 【治療経過】 喘息発作にたいして外来でただちにネブライザー吸入治療を行い、発作は軽快しました。その後ゆっくり診察したわけですが、前医の薬とともに、漢方は小青竜湯に漢方的所見を勘案して柴朴湯を加えてみました。投与1週後、発作もなく、具合よい。呼吸器内科専門医に併診を依頼し、テオドールの内服、サルタノールインフェラー(β刺激薬)、アルデシン(ステロイド剤)の吸入が処方されました。頚囲のカサカサが強く、小青竜湯を中止して、柴朴湯と当帰飲子の処方としました。3週後、経過順調で発作も全く消失しているのでテオドールを中止としました。 6週後(1994年1月)、喘息発作なし。呼吸器内科より、処方はアルデシン吸入のみとなりました。喘息はよくなりましたが、最近痒みが増強。顔、首の色素沈着が強く、黒褐色調の上に、発赤と掻破痕あり。処方は、荊芥連翹湯、柴朴湯各1日2包に、消炎効果を強める意味で黄連解毒湯(コタロー)1日4カプセル、分2を合わせ、さらにヨクイニン(美肌効果のあるハトムギのエキス剤)を加えてみました。自家製中黄膏(当時、研究中の試作品)の塗布もすすめました。また、日本型の食生活の実践と甘味の摂取制限について、繰り返し私が指導いたしました。 2ヶ月後、同処方がよく効いて、痒みはほとんど消失してきました。 3ヶ月後、顔面のカサカサ感のほかに苦痛がなくなり、首や顔の黒ずみも半分位はきれいになりました。一方、喘息はその後もずっと寛解しており、ステロイド吸入もやめているが発作はおこりません。 4ヶ月後、顔面の乾燥、軽度皮疹あり。喘息は治癒と認め、柴朴湯を中止し、さらに体質改善、とくに腎(漢方では生命力の根源と考えられている)を強化する意味で六味丸を加えました。処方は荊芥連翹湯(合黄連解毒湯)と六味丸、ヨクイニンへ。西洋薬は保湿剤(ヒルドイドなど)のほかは全く使っていません。 6ヶ月後、本方で全く順調です。表情が見違えるほど明るく生き生きとしており、色素沈着もだいぶとれて、きれいになっています。秋に結婚予定とうれしそうに話してくれました。黄連解毒湯を中止とする。その後も順調、10ヶ月後、めでたく結婚され、処方を継続。 1年1ヶ月後(1995年1月)、少しカサカサのみで、喘息発作も全く認められず、皮疹の悪化もなく、きわめて良好にコントロールされています。この患者さんは当初、喘息に対して柴朴湯が著効しましたが、その後アトピー(および喘息)の本治法(体質改善)として荊芥連翹湯合六味丸という漢方処方が有効であったように思われました。 【その後の経過】 その後、実はすぐ妊娠されました。妊婦の安胎薬とされる当帰芍薬散を処方。経過順調で男児を出産された後は、たまに保湿剤などを処方したり、悪化時に一時的にステロイドクリームを少量使用する程度で、次第に受診が遠のきました。本例を紹介してくれた患者さんによれば、約10年後の現在、すでに2児の母となり、アトピーの悪化もなく幸せに暮らしておられるとのことでした 以上、こころに残っている患者さんのカルテから、2例について漢方治療をまじえながら綴ってみました。未熟な漢方治療でしたが、すこしでも皆様の治療のご参考になれば幸いです。 (初出:『リボーン』69号、2003年7月) |
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