ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.14  腰痛症の漢方治療


腰痛症の原因はいろいろあります。慢性の腰痛の原因としては、変形性腰椎症、骨粗鬆症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、などの整形外科的な疾患が代表的です。進歩した画像検査(レントゲン、MRIなど)を含む専門的診断が大切です。それ以外に、婦人科疾患(子宮内膜症、卵巣疾患など)、泌尿器疾患(尿路結石、膀胱炎など)、消化器疾患(慢性便秘症、まれに胃腸のがん、など)、さらには心理的ストレスや心身症による腰痛などがあります。
また、過労、肥満、悪い姿勢をとりつづける、長時間のパソコン業務などによって腰に負担がかかり筋、筋膜性腰痛がおこります。
いわゆる「ぎっくり腰」は、重量物の持ち上げなどにより急激におこるはげしい腰痛の総称です。通常、1か月以内に痛みは改善します。
腰痛の治療は現代医学では急性期では安静、臥床、消炎鎮痛剤(内服、シップなどの外用剤)、整形外科的ブロック(注射)療法などが、慢性期ではさらに装具療法、牽引、温熱療法、運動療法などのリハビリが通常おこなわれています。

さて、漢方療法は現代医学にまかせるべき疾患をのぞき、多くの腰痛症に適応があると考えます。現代医学との併用がよい場合も多いので、柔軟に対応すべきでしょう。
漢方では、腰痛を冷えによるもの、加齢・老化現象によるものに大別します。

まず、冷えによる腰痛ですが、五積散(ごしゃくさん)はまず使ってみる処方です。おだやかな処方で高齢者にも適し、風呂に入るなど温まると薬になり、冷えると悪化する腰痛に用います。
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)は一般的な腰の冷えと痛みに用います。               当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は、長年冷え症の人で、寒冷刺激や血行障害によって起こる腰痛、坐骨神経痛に有効です。手足の末端の冷え症やしもやけを訴える人に適し、冷えが原因の下腹部痛、月経痛などにも効くことが多いのです。冷えがつよければ、加工ブシ末(修治ブシ末、アコニンサン)を併用します。
芍薬甘草湯:(しゃくやくかんぞうとう)は骨格筋にたいする鎮痛、鎮痙作用があります。これに、加工ブシ末を加えると、芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)となり、鎮痛、温補作用が増強され、急性の腰痛のほか、下肢筋肉痛、こむらがえり、月経痛などにも有効です。多くのぎっくり腰にも最適でしょう。漢方の鎮痛鎮痙剤として短期投与や頓服に適しますが、少量長期投与(1日1包夜など)がよい場合もあります。
疎経活血湯(そけいかっけつとう)は、冷えと血行障害、つまり、瘀血(おけつ)による頑固な痛み、しびれ、運動麻痺に用います。

次に、老化現象によるものとしては、八味地黄丸(はちみじおうがん)は老化、腎虚(精力減退、下半身の衰え)による腰痛、下肢痛、に用います。高齢者で冷えがあり、頻尿、とくに夜間尿が多いという者にも適します。牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、しびれ感や足のむくみをともなうものに適します。

さらに、抑鬱傾向のものには、香蘇散(こうそさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん) (慢性、難治性のため、苛立ち、憂鬱、易怒、不眠などを訴える場合)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(不安、不眠、こだわり、動悸、など)などが応用されます。