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私が東洋医学的治療法と出会ったころ(その1)
今はもう冬。机に向かっていると足が冷えます。
昔、私は机の下に小さな電気ストーブを置いて勉強したものです。小学生の頃(1950年代、神奈川県秦野市に在住)は5枚も6枚も服を着込み、炭火か練炭が赤々と燃える火鉢にかじりついて暖をとっていたのを思いだします。 火鉢にはいつもやかんのお湯がチンチンと音を立てながら沸いており、狭い茶の間に適度なぬくもりと湿り気を与え、鼻づまりもスーッととれて、夜はそれとなく眠気を誘ってくれました。 昔の木造家屋は粗末でしたが、サッシの窓もなく、玄関の木戸や障子、天井も隙間だらけで自然換気が良かったのでしょう。閉めきってもガス中毒にかからずにすんだようでした。 そして、あのころ、ハナ垂れ小僧や霜焼けの子は多かったのですが、なぜか身近にアトピーの子どもはいなかったのですね……。 さて、今回は、私が東洋的医療や漢方に目を開かれたころに触れたいと思います。 ●慢性の胃腸病で高校を休学 私は昭和35年に神奈川県の藤沢市立i中学を卒業、隣接する県立S高校へ入学。担任は国語の名物教師で、中学時代も国語の女教師でした。その影響か、国語、古文、漢文は好きで(後年、漢方を学ぶのに役立ったようです)、外国の大河小説を通学の電車内で速読するのが趣味(?)でした。「チボー家の人々」、「ジャン・クリストフ」などなど、中3の担任:M先生からすすめられ、車内で読みふけったことを思い出します。 ●休学中に健康行脚、東洋医療で治る いろいろ消化器病学の治療を受けても治りにくいことから、いつしか現代医学(当時の)への疑問も沸き、放課後はS高校の図書館所蔵の膨大な家庭医学書、健康法や食養の本などを、片っ端から読破。その結果、自分には個々の体質を重視する自然療法や東洋医学的なやりかたが合っているのではないかと真剣に考えはじめていました。 とくに東洋的食養生、断食(絶食)療法や、からだを良く動かす健康体操、物理療法などに強く惹かれるものがありました。日本には「漢方医学」という伝統医学があり、江戸時代には『吉益東洞』(よしますとうどう)によって日本漢方が大成され、「万病一毒論」などをとなえた、などということも高校時代に学習したのです。 休学後はまず、現代医学の治療をしっかり受けようということで、「慢性胃炎」(今でいう「機能性胃腸障害、FD」)の療養目的で平塚市にあるK病院に入院加療し、症状軽快、退院。湘南の海岸に近い、松林に囲まれた昔の療養所といった趣の環境良好な病院で、広々とした庭にはちょうど竜舌蘭の花が咲いていました。 しかし、退院後も胃腸虚弱が治ったわけではないので、自分の意志でしばし西洋医学に別れを告げ、17歳の春3月に東京、幡ヶ谷にあったM診療所ではじめて入院短期絶食療法を受けました。 その結果、からだの毒素やいわゆる宿便が排泄されたためか、断食後はすこぶる心身の爽快!を覚えました。M医師(故人)は私がはじめて接した東洋医学も応用した西洋医で、大柄のとても温厚、包容力に富んだ先生だったと記憶しています。 当時は風当たりも強かったと思いますが、先生は毅然として東洋的スタイルの診療をされていました。同院にはある健康法の小型の運動器具も置かれており、自由に利用できました。それがとても気持ち良かったのですね。つまり、病を治すには、薬だけにたよらず、身体的な運動(フィジカル エクササイズ)を体質、病状に応じて続けることや、食生活、食習慣を見直し改善してゆくことが大切だということを教えられたわけでした。 その後は、健康体操を習得して弱い足と全身を鍛えたくなり、中野の某医院にも入院してお世話になりました。某先生は小柄な信念の医師で、現在もご健在ご活躍です。先生から「君の病気はかならず治る」と初診時に励まされたとたん、前途に光明が射したことをしっかり覚えています。 生野菜ジュース(人参、大根、キャベツ、ホウレンソウ、小松菜など、季節野菜をミックスしたフレッシュジュース)や食事療法、温冷交互浴、VCの豊富な柿の葉のお茶(柿茶)の飲用、マグネシウム製剤(マイルドな制酸緩下剤)による便通の改善、脊柱の歪みや腸管の生理的運動を調整する運動、手足を上に挙げて微振動させ、静脈環流と全身の血行を促進する運動などの効果を体験したのはそのときでした。 これらはいわば、食事と運動、前向きな心のもちかた、などの東洋医学的自然療法を総合的に組み合わせたものでした。 その後、おかげさまで次第に体調が良くなり、胃腸症状もあの体のだるさも消え、足の痛みもなくなり、自信をつけて、復学。そして、都立S高校に転校。爾来、夏、冬の休みには短期絶食を繰り返し行いました。この高校では男女共学のなごやかな雰囲気で、ますます健康に自信を深めることができ、2年後、都合5年間の高校生活を卒業、信州大学医学部に入学。うれしいことに当時の都立高校の同級生は皆60代ですが、いまでも何人か当科に受診してくれており、親交をつづけております。 ●療養して私自身が学んだもの 病気は自然治癒力で治ることが多い、ということです。繰り返しになりますが、内なる治癒力を発揮できるような養生が大切ということです。もちろん、病気によってはつらい症状に対応した的確な対症薬、薬物療法が必要です。 たとえば、アトピーではステロイド外用剤(クリーム、軟膏)や、プロトピック軟膏という画期的な局所免疫抑制剤で皮膚炎、湿疹の赤み、痒みをとることは、悪化再燃の悪循環を絶ち、QOL(生活の質)を維持するために大切ですが、それと同時に並行して、皮膚とからだ全身を丈夫にする養生、食生活の改善という考えかた、とり組みかたが必要だ、望ましい、ということです。 漢方の本来的な役割も、おそらく治癒力を高め、良い体質づくりをする補助的療法だろうといまでは思っています。若い人ほど、養生や漢方の効果がでやすいのですね。 私はこうして若い日に絶食、食養生などを繰り返し行って、食の大切さというものを痛感いたしました。 その後、消化器内科医となり、漢方を治療に応用したのは卒後10年近く経ったころからでした。(以下、次号) (初出:つるかめ先生のアトピー養生記 第8回、『リボーン』。一部著者追加訂正) |
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