ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.12  気管支喘息と漢方併用療法


気管支喘息は昔から多い病気です。喘息の原因としては、家のなかのほこりやそのなかのダニなどに過敏となったアレルギー説が有力です。それにかぜなどの感染、ストレスや心身の疲労、大気汚染などが誘因となって起こります。現代医学的には、気道(気管支粘膜)の慢性の炎症がこの病気の本態です。そして種々の刺激に過敏に反応し、気道がけいれんして(気流閉塞)呼吸が苦しくなりゼイゼイと喘鳴がして、喘息発作が起こります。
現代医学では喘息の標準治療として、『吸入ステロイド剤』(気道の慢性炎症を改善し発作を予防する)、β−刺激剤(内服、吸入剤、テープ)、テオフィリン製剤(内服、注射)、抗アレルギー剤(内服)などを組み合わせた治療法がほぼ確立されてきました。   
とくに近年、吸入ステロイドの普及によって喘息の死亡率は著明に下がってきたのです。

さて、漢方はこれらの治療と上手に併用すると治療効果が高まるでしょう。喘息発作時、急性期は現代医学が中心となりますが、発作がおさまった寛解期では漢方の長期服用によって西洋薬の減量が可能となる例も多く経験されます。
喘息発作の改善後もしつこい咳や痰などが残るときには、体力のある実証の人では、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、五虎湯(ごことう)、体力がない虚証や高齢者などでは苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などが用いられます。
くしゃみ、鼻水、水っぽい痰をともなうときには小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、から咳やのどの乾燥感をともなう咳には麦門冬湯(ばくもんどうとう)、痰がきれない、胸苦しい、のどがふさがる感じがする場合には柴朴湯(さいぼくとう)や神秘湯(しんぴとう)などが用いられます。
とくに柴朴湯はこれまでもっとも経験例、有効例が多く、吸入ステロイド療法との併用で長期的に用いて気道炎症の改善、発作の予防に有用です。

さらに、胃腸が弱い脾虚体質では補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子(りっくんしとう)など、加齢による足腰のおとろえ、冷えなどの腎虚体質には八味地黄丸(はちみじおうがん)、真武湯(しんぶとう)など、小児虚弱体質には黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、補中益気湯、柴朴湯などの有効例が多いのです。
また、かぜの後に長く咳がとまらない遷延性咳嗽や咳喘息(せきぜんそく)には、医学的必要性に応じて短期間のステロイド療法、β刺激剤などとともに麦門冬湯、柴朴湯などの併用もよろしいのです。

漢方治療の大きな役割は、個々の患者さんの体質に応じて漢方を併用して長期的に体質改善をはかり、かぜにかかりにくくするなど、体を丈夫にしてゆくことによって、喘息の発作防止と日常の生活の質(QOL)をたかめてゆくことにあるでしょう。
喘息の養生としては、食べ過ぎ、飲みすぎをしないこと(腹8分目。満腹になると発作がおこりやすい人がおられますのでご注意)、トウガラシなどの辛味のつよい刺激物をひかえること、精神的安定、リラックスにつとめる、ふだんから手足をよく動かす、などをこころがけましょう。日常食品では大根には去痰作用があるとされます。